こんにちわ!地域包括支援センターの熊抱(くまだき)です。
地域包括支援センターには、たくさんの相談ごとが寄せられます。 ”今、悩んでいる方” ”これからの将来が不安な方” 少しでも明日へ向けての一助になればと、相談内容の一部をご紹介いたします。 *以下は、相談事例をもとに再編成したフィクション(創作物)です。
日記に綴られた夫の思い
妻に認知症と思われる症状が出てきた
窓口を訪れたAさん。 元々、物事を整理することを生業にしていたこともあり、日々の出来事を日記風にワープロで打ち込んでおられた。 その文面を見せていただきながら、話をお聴きする。
〇年〇月〇日 あれだけ好きだった料理もできなくなってしまい、甘かったり、酸っぱかったり、辛かったり、味もわからないようだ。
〇年〇月〇日 ゴミ出しの日は間違え、掃除もしなくなってしまった。
〇年〇月〇日 納豆が5つも冷蔵庫に入ってある。賞味期限が切れているものもたくさんある。
〇年〇月〇日 暑い日に長袖を着たがる。季節感も感じられなくなったのだろう。
〇年〇月〇日 保険証の紛失が3回目、再発行の手続きに何回も市役所に行ってた。
本人ができなくなってしまったことを時系列とともに、ただただ書き連ねていた。 でも、Aさんの顔は、どことなく暗くない。 仕事柄、課題を見つけてはそれをどう解決するか、そんなことをずっとやり続けてきたそうで、怒るでもなく、諦めるでもなく、どうすればいいか一緒に考えて欲しいと言うのが来所された主訴だと悟った。
相談援助職としての声かけ
”家族が認知症になった” 経験上、真正面から受け入れられる家族は多くない。 これまで積み重ねてきたものがゆっくり音を立てて崩れ落ちていく、何もできない無力感、これからに対する不安感、来所された相談者の心の内の叫びが押し寄せてくる。 なんて声をかけるのがベターか、Aさんの苦労に共感するのが先か、認知症本人に焦点を当てて話をすべきか。
今まで通り、ご主人のために料理をつくろうしてくださるんですね!
買い物に行ける筋力は衰えていないようですね!
若い頃はお洒落な方だったんでしょうね!
市役所での手続き、複雑すぎて私でもひとりで行くの不安なのに、再発行できてるんですね!
”ヒトは誰しも、できない部分に目がいきがち” ”できないことではなく、できることに目を向ける” Aさんならと、認知症本人に焦点を当ててみた。 そのあとは、約40分、話しあいを通じて、方向性を見出す。
認知症介護に対する夫の変化
〇年〇月〇日 今日も昨日と変わらず、料理をつくっていた。野菜を切るのは妻、味付けは一緒におこなった。
〇年〇月〇日 病院の日、前日の寝る前と、起きてすぐの朝に、病院へ行くことを伝えた。忘れずに一緒に行くことができた。
〇年〇月〇日 ゴミ出しは私がおこなうようになった。料理をした後の調理場の掃除はまだまだキレイにできるようだ。
〇年〇月〇日 季節感の無い洋服は、全てしまうようにした。初めは探し回る様子もあったが、今は問題ないようだ。
〇年〇月〇日 大切なものの保管場所は、私も把握するようにした。それでも紛失をすることはあるけど、診察券ぐらい大した失くしものじゃない。人としての心を失うほうが、大変なことなのだ。
その後、来所された際に改めて見させていただいた日記を横に置いて、若い頃のAさんご夫婦のお話を聴く。 成人させるまでの子育ての悩み、休日も出勤しなければいけないほどの公務に追われた仕事、親族や知人の死、心が折れそうになるときもあったけど、どんなときも大切にしていたのは、”夫婦間での対話”だったと。
認知症の妻との関わりが増えたことで、むしろ対話する時間を取れなかった若い頃よりも、もっと密な関係になっていると思います。
このぐらいの歳になると、相手が何を欲しているかは、阿吽の呼吸でわかる。だから、一緒に料理をつくるとか、お風呂の声かけをするとか、なんなら手を握るとか、そんなことをするようになるとは思いもよらなかった。
これまでの数十年の積み重ねは、お互いの”思いやり”や”やさしさ”で溢れかえり、それが、認知症になった家族を受け入れられる心を育んでいたようだった。 認知症介護に対する、Aさんが出したひとつの答えでもあった。
認知症介護がもたらすもの
将来、いつか訪れるそのときに備えて、夫婦、家族、近隣住民との対話を大切にしておく、それが最大の認知症予防につながるのかもしれない。 しかし、介護は理屈じゃない。今、この時間にも大変な思いをしておられる方々はたくさんいる。 ”なにか事が起こったとき、前向きに捉えられるかどうか” そんな考え方を幼い頃から学ぶことができていたら、認知症や介護に対する考え方も変わるのだろうか。 Aさんとの関わりは、私の支援観の財産となった。 認知症介護を通じて、”認知症とは何か”、”家族とは何か”を深く、深く、心に刻み込むこととなった。 *以上の文面は、相談事例をもとに再編成したフィクション(創作物)です。
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